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中国政府が発表した新しい地図に国際社会の非難が広がっている。沖縄県の尖閣諸島を中国名の釣魚島と表記した。南シナ海のほぼ全域を自国のものとしているほか、インドとの係争地も自国領と表示した。
さらには、中露国境に位置する大ウスリー島のロシア領部分も中国領とした。
中国のとどまるところを知らない領土・領海への野心が、地図という紙の上で如実に示された格好だ。中国は新地図を撤回すべきである。
問題の地図は、中国の自然資源省が8月末に公表した。インドネシアでの東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議や、インドでの20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を控えた時期だった。
公表直後、フィリピンとベトナムは「何の根拠もない」「主権、管轄権の侵害だ」と非難した。米高官は「国境を再編し、他国がそれに従うことを期待してニューノーマル(新常態)をつくりだそうとしている」と警戒を示した。
日本政府は中国政府に厳重抗議した。松野博一官房長官は「歴史的にも国際法上も疑いのない、わが国固有の領土である尖閣諸島について中国側の独自の主張に基づく表記が確認された」と批判した。
中国は南シナ海に一方的に「九段線」を引いて不当な支配を強めてきた。今回は、九段線を台湾東方海域にまで拡大した十段線を記した。ボルネオ島(カリマンタン島)沖のマレーシアの排他的経済水域(EEZ)と重なる海を中国の水域と表示した。
しかし、九段線自体が2016年のオランダ・ハーグの仲裁裁判所の裁定で明確に否定されている。「法の支配」を踏みにじる地図の公表は、各国の反発を招くだけの失策といえる。
ASEANと日米中露などが参加した7日の東アジアサミットでは、日米やフィリピンなどが南シナ海での中国の威圧的行動を改めて非難し、法に基づく国際秩序を守るよう迫った。
中国の李強首相は、対中国の「小さな陣営をつくろうとする試みに断固反対する」と反発したが、耳を傾ける国はほとんどあるまい。
日本や各国は結束し、中国による一方的な現状変更を止めねばならない。
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2023年9月9日付産経新聞【主張】を転載しています